アイリスオーヤマPCが不評?GIGAスクール構想と小中学校プログラミング教育必修化!

3月22日、アイリスオーヤマが初のノートPCを発売すると発表し、FacebookのIT系グループで早速話題になった。何がって?その貧弱すぎるスペックが、だ。
実は昨年10月に地元で定期的に開催されている「子どものためのプログラミング道場」の、CoderDojo(コーダー道場)へ「どんなモンなんか?」と思って連絡をして、参加していた。
その時に色々と写真を撮ったりDojo主さんに話を聞いたりしたので、とっとと記事化すれば良かったのだが、私にも色々と都合と優先順位があり、ついに記事化するタイミングを失ってしまった
そこでアイリスオーヤマのノートPCがSNSで酷評されることになったため、これでも記事にするタイミングとしては遅いのだが、あえて私なりに付加価値を付けた記事にしてみようと思う。

教育向けプログラミング言語の末路

私がどういう経緯でCoderDojoを日本で主催しているCoderDojo Japanからメールを受け取ることになったのかは忘れたが、2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化(中学校では2021年度から必修化)されたことと関係している。
なぜなら私は、小学校でプログラミング教育の必修化は無駄だと思っているし、その根底には誰もが「勉強すればプログラミングが出来る」という、ITに関する根本的な無理解吐き気がする。
そもそも義務教育でやるには、設備的にも教員的にも指導要領的にも無理がある、と思っているのだが。
それが昨年からのコロナ騒動でプログラミング教育どころではなくなったようだが、逆に「GIGAスクール構想の実現」が促進されることになったようだ。
GIGAスクール構想については後述するが、私は「小学校でプログラミング教育の必修化は無駄」とSNSでも発言はしていたし、小中高校生が教育用と称して使っているプログラミング言語Scratch(スクラッチ)も「オモチャ言語でプログラミングする意味はない」と断じており、SNSでもそう発言している。
なんでScratchがオモチャ言語なのかをここで説明はしないが、もう30年以上も前に同様のコンセプトで登場した、教育用プログラミング言語LOGO(ロゴ)を使い、その大失敗を知っているからだ。
現に、今でもMZ-2000用に買ったMZ-LOGOを持っている。

MZ-LOGOマニュアル

図はたまたま先日、第10次押入れ探検隊により発掘されたMZ-LOGOのマニュアルだ。
奥付には「1983年7月10日 発行」と書いてあるが、私が入手したのはそれよりも何年か後で、閉店予定の店の奥でホコリを被っており、タダ同然の値段で買った記憶がある(ちなみに定価は9,800円)。
ほぼ新品同様のマニュアルを拾い読みして色々と思い出したが、簡単なコマンドで画面上のタートル(亀=ポインター:MZ-LOGOではグラフィックの三角形)を動かし、タートルグラフィックスを再帰的に描くことが出来る。
つまり、現在のScratchと同様、簡単な構文をイジれば絵が動く、ということから子供の興味を惹き、プログラミングを学ばせようとする「入り口」が全く同じである。
当時の8ビットパソコンではインタプリタで動作するBASICが主流で、当時のBASICは非構造化プログラミング言語だったから、構造化プログラミング言語でリスト構造を持つLOGOは初心者向け(教育向け)といった意味でも画期的ではあった。
また、MZ-LOGOもそうだが、構造化プログラミング言語であることについて、再帰的にタートルグラフィックスが簡単に描けることを売りにさえしていた。

MZ-LOGOカセットテープ

MZ-LOGOについて語っても仕方がないが、これがエディタとインタプリタの動作と相まって、超絶トロい。重くて重くてイライラし、結局は何回かいじっただけでお蔵入りにしてしまった。
当時の他のパソコンでLOGO言語が製品化されなかったように、教育用プログラミング言語として一瞬脚光は浴びたが、少なくとも日本では需要が無かったのである。
教育用でも、学習したことが後々にも活きなければ無駄でしかない。
その点、LOGOとほぼ同じ時代で同じ教育プログラミング言語でも、Pascal(パスカル)はプログラミング学習の内容が今でも通じる。
現在のDelphi(デルファイ)の祖先はTurbo Pascalであるし、Sybase(サイベース)やOracle(オラクル)といったRDBMSストアドプロシージャの構文はPascalであったりする(厳密に言えばOraclePL/SQLAda(エイダ)がベースのようだが、Pascalと構文が近い)。
では、Scratchはどうなんだろうか?
私はLOGOと同じ末路になるだろうと思っているし、恐らく小中学校のプログラミング教育で学ぶのはScratchになるだろう。
ゆえに、私は「オモチャ言語でプログラミングする意味はない」と断じる
どうせやるならば、無料のGoogle Apps Script(GAS)を学習させるべきだろう。GASならGoogleが無料で提供しているサービス(Gmail・カレンダー・ドキュメント・スプレッドシート・フォーム等々)でいくらでも応用が利くし、将来的にも学んだことは無駄にならない

教育向けWindowsタブレット兼ノートPC?

Scratch否定論者で、小中学校でのプログラミング教育必修化否定論者の私が、なぜ地元で小中学生向けに開催しているCoderDojoに参加したかと言えば、現在の小中学生がどのようにプログラミングを勉強しているか?を知るためである。
私は子供がいないし、まさか小中学校に訪問してその実態を知ることは不可能だ。
それに、メンター(子ども達が作りたいプログラムを一緒に考えてサポートする大人)として何かお役に立てるかも知れない、と考えていた。

実際に参加してみると、参加者は小学校低学年の女児2名とその母親、Dojo主の息子1名(やはり小学校低学年で、写真から見切れているが、別のテーブルでひたすらMinecraftで遊んでいた)、それにメンターのオッサンに私(オッサン)であった。
Dojo主に了解を得て顔が写り込まないように写真を撮ったが、邪魔をするワケにも行かず、さりとて撮るべきモノも特にはなかった。
そんな中、Dojo主が「先日アキバで見つけた安くてカワイイPC」とやらを見せてくれた(残念ながらスマホで撮影したものの、スマホが壊れ気味だったのか、画像がムチャクチャになっていたので別画像を載せる)。

KANO PC

なんでも、税込みで4万円程度だという話で、小学生が自分で簡単に組み立てられ、タブレットとしてもノートPCとしても使える、ということだ。
が、私には「小学生用のオモチャPC」にしか見えなかった。実際そうなんだろうが、それにしてもスペックも小学生用のオモチャPCだと思った。

OSWindows10 Pro 64bit
CPUIntel Celeron Gemini Lake N4000 2.6GHz
メモリ4GB
ストレージ64GB eMMC
ディスプレイ11.6インチ Full-WXGA(1.366✕ 768)

聞いてみれば、メモリとストレージは換装が出来ないようで、当然ながら増設も出来ない
小学生がScratchの学習用に、親が最初に買い与えてやる分には値段とスペックはソレナリだと思うが、それ以外にはメールやネットのブラウジング程度にしか使えないだろう。
かと言って、新品の10万円以上するノートPCをいくら学習のためとは言え、小学生の子供に買い与えてやれる家庭が、今の日本にどれぐらいあるだろうか?
それにしても、イギリスはその昔のシンクレアZX81といい、どうしてこうも低価格路線のパソコンを生み出すのだろうか?

アイリスオーヤマのノートPCの背景にあるモノ

ここで、やっとGIGAスクール構想の話になる。
GIGAスクール構想を簡単に言えば、

児童生徒向けの1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備し、多様な子どもたちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化された創造性を育む教育を、全国の学校現場で持続的に実現させる構想

という、大変ご立派な構想である。
このご立派な構想の背景には、「Society 5.0に生きる子供たち」にとって、教育でITをベースとした先端技術の活用は必須、ということらしい。
が、このご立派な構想にも、この背景にも、ツッコミどころ満載だと思うのは、私だけではないハズだ。そして、「Society 5.0とはなんぞや?」という素朴な疑問が浮かぶ。
整理すると、今までの社会は次のようなモノであった、という定義がされている。

  • Society 1.0:狩猟社会
  • Society 2.0:農耕社会
  • Society 3.0:工業社会
  • Society 4.0:情報社会

ザックリ、日本では中世までの社会がSociety 2.0で、近代化した19世紀~20世紀がSociety 3.0、20世紀がSociety 4.0と言えそうだ。私なんぞはSociety 4.0の古い人間なのだろう。
内閣府によるSociety 5.0とは、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」と定義している。

図は文科省の令和元年度補正予算(GIGAスクール構想の実現)の概要だが、小1~中3の「児童生徒に1人1台端末」を実現するための事業スキームとして、赤下線のように1人あたり最大で4.5万円の補助を出す(出した?)ようだ。
ここでピンと来た人も多いかも知れない。
では、SNSで酷評されたアイリスオーヤマのノートPCはどんなスペックなのか?

OSWindows10 Pro 64bit
CPUIntel Celeron Gemini Lake N4100 1.1GHz
メモリ4GB
ストレージ64GB eMMC
ディスプレイ14インチ Full-HD(1,920✕1,080)

前述したKANOのタブレット兼ノートPCとはノートPCとしての形状・大きさ・重さ、ディスプレイの解像度が若干違うだけだが、こちらもメモリやストレージの換装は無理だろうし、当然ながら増設も出来ない
別にスペック厨ではないにせよ、「何年前のノートPCのスペックなんだ?」とはなるし、換装も増設も出来ないのは、普通の大人がビジネスやホビーでWindows10を使おうと思えば、「買うに値しない」スペックである。
ゆえに、SNSでは酷評となるのだが、なぜそうなったのか?は、GIGAスクール構想に原因がある。

図は文科省のGIGAスクール構想の実現パッケージからの引用だが、赤下線で示したように、いちいち文科省の「標準仕様」通りであり、図に「2016年8月移行に製品化されたもの」と、わざわざ注釈がある。
要するに、小中学生が使う端末(ノートPC)のスペックは、今から5年ぐらい前のスペックで十分だと言っているようなモノで、前述の令和元年度補正予算(GIGAスクール構想の実現)の概要を図で示した通り、最大の補助金4.5万円程度で購入可能なノートPCのスペックでは、この辺がギリギリだということだろう。

KANOやアイリスオーヤマPCは買いか?

私のようなハードにPCを酷使する人間には論外だし、繰り返すようだがSNSで酷評されている通り、普通の大人がビジネスやホビーでWindows10を使おうと思えば、購入する選択肢に入らないだろう。
しかし、現在の日本人の平均所得は1990年代と同等か、それよりも落ちているのが現状で、子供の学習のために仮に税込で4~5万円のノートPCであっても、買い与えられる家庭がどの程度あるだろうか

2012(平成24)年では、子供の相対的貧困率16.3%約6人に1人が貧困状態)だったのが、2019(平成30)年には13.5%約7人に1人が貧困状態)に改善はされたものの、昨年からのコロナ騒動もあって景気は依然としてかなり厳しい。
また、同様に小学校から大学も含め、リモート授業その他が思うように実施できなかった実態が、GIGAスクール構想の実現の拍車をかけているようで、もはやノートPCやタブレット端末は「小中学生の学用品」なのかも知れない。
そうは言っても、いきなり子供にノートPCやタブレット端末を買い与えられないし、国が最大4.5万円を援助してくれるなら、KANOやアイリスオーヤマのPCは親にとって「買い」だろう。
実際に、KANOのタブレット兼ノートPCのAmazonレビューでは、

  • 子供にとっては最高の1台に
  • ファーストPCに最適
  • 値段手頃

といった、「子供向けに良い」とする評価が多いようだ。
アイリスオーヤマのPCに関しても、発売直後に「1万円引き」ながらも、「売り切れ続出」と報じている。

安いノートPCはKANOやアイリスオーヤマだけではないし、それこそAmazonを探せば怪しい支那製の中華ノートPCは割と結構ある。ただし、こういう粗製乱造されたPCだと、それこそ「銭失い」になりかねない。
それに個人的には、いくら低スペックなノートPCであっても、iPadを含むタブレット端末よりかは「パソコンであるだけ遥かにマシ」だと思っている。
タブレット端末には出来ない、パソコンにしか出来ないモノがあるからだが、私と同世代かその下世代の普通の親どもは、理解はせんだろうな

おわりに

小学生の頃から何年も両親を口説き、中学生の時に父にパソコン代として一式50万円近くも出させた私からすれば、色々と思うことはある。
小中学校のプログラミング教育必修化と、そのプログラミング言語がScratchであることに関しても、私はほぼ全否定の立場だが、「体験させるのは良い」とは思っている。
義務教育や、義務教育以外の学校でやった勉強が後の人生に全部が全部役に立つとは思ってはいないものの、学校での体験や経験は後に役立つことがあるからだ。
これはCoderDojoに参加した際に、Dojo主とメンターの方が私物を持ってきていたのを見せてもらったのだが、USBケーブルでmicro:bit(マイクロビット)に接続し、LEDの点滅制御やピアノの音を出すといった簡単なモノから、ロボット(小さいロボカー)を動かして迷路の上を走らせる、といったモノを見せてもらった。

これは10年ほど前に流行ったワンボードマイコンのRaspberry Pi(ラズベリーパイ)の応用・発展型だし、私が小中学生の頃は電子パーツを集めてハンダゴテで電子工作をしていたものだが、それよりも遥かに進化している。
Raspberry Piが流行した時もそうだったが、CoderDojoのメンターの方は恐らく私と同世代のようだし、当時小中学生だった自分が経済的もしくは能力的に出来なかったことを、子供を通して実現して楽しんでいるようだった。
そういった意味では、「Scratchを通して親子で大いに楽しむ」というのはアリだと思う。そういう親がどれだけいるかは不明だが。
いずれにせよ昔に比べれば、パソコン本体を含め、周辺機器は驚くほど安価になり、また、商品としての完成度も高い。
ザックリ言えばプログラミング言語のLOGOを開発したのはアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)だし、現在のScratchMITが開発しているのだから、因果を感じないワケには行かないが、Scratchの内部構造(恐らくJavaScript系?)をハックして自在に改造する小中学生が出ないとも限らない。
ただし、日本の現行教育制度でのプログラミング教育では効果を望むべくもないだろう、と危惧せざるを得ない。

 


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