映画「夕凪の街 桜の国」【一部ネタバレ】

こうの史代この世界の片隅に』を初めて読んだ時、震えるほど感動した。
どこかユーモラスでコメディ的なタッチでありながら、ここまで素晴らしい物語をマンガとして成立させるとは、本当に稀有な才能だと震撼したのだ。当然、原作の映画も観に行き、何度も目から汗が出て困ったか知れない。
同氏の『夕凪の街 桜の国』も素晴らしいマンガで、やはり何度読んだか知れないほどだ。
昨年の夏頃に、たまたま古本カフェ・フォスフォレッセンスの主人に『夕凪の街 桜の国』の実写映画があることを教えていただき、早速アマゾンで購入したものの、なかなか観る勇気がなかった。
結局1年以上も放置してしまったが、先日書いた記事で観ると宣言した以上、令和元年の夏に絶対観ようと、意を決してDVDを視聴したのである。

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DVDを観終わった率直な感想としては、「こんなに素晴らしい映画なら、もっと早くに観ておけば良かった」だった。
号泣するかな?と思ったが、号泣はしなかった。自然に目から汗が流れて、それがなかなか止まらなかっただけだ。
原作の持つ世界観をそのままに、しかも原作では描けない「リアル」を実写映画として追求していて、原作ファンとしても非常に満足する内容の映画だ。
私は原作を知り抜いているので、細かいセリフひとつとってもほぼ原作に忠実であり、多少の映画的な前後のつながりからアレンジした部分はあるが、それもごく僅かでしかない。その上で原作にもない「リアル」な場面を展開している。
私が「原作をオマージュしているな」と感心したのは、こういった映画にありがちな「戦争や原爆の悲惨さと不幸」を、ややもすると政治的な主張として映画的に表現してしまうといった危うさが、見事なまでに一切なかった点だ。
これはアニメ映画になった『この世界の片隅に』でも同様であったが、余す所なく原作が意図するところをすべて汲み取っている、と思えた。

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マンガの原作者であるこうの史代氏は、一連の作品で決して「何かを主張」したいのではない、と私は思っている。
以前、何かでこうの史代氏の文章を読んだが、こうの史代氏自体は広島県出身ではあっても、ご自身はいわゆる「被爆者」ではなく、そういった意味で自身の体験や経験を基にマンガを描いたのではない、と。広島県出身のマンガ家として、史実を基に創作された作品であることは、間違いがないだろう。
そういった意味では、作者自身が被爆者として広島で原爆を体験した中沢啓治はだしのゲン』とは、『この世界の片隅に』とともに対照的な作品ではあるし、作者の意図もかなり違う。
私はかつてアニメ映画の「はだしのゲン」を観たことがあったが、端的に言えば「原爆ホラーアニメ」と化しており、そこに何らかのプロパガンダ臭を嗅ぎ取ったので、何ともイヤな気がしたのを覚えている。原作マンガを「悪い」と思ったことは一度もなかったが、アニメ映画「はだしのゲン」は、ひとつも良い所がなかったという印象しかない。

実写映画の「リアル」

昭和33年、戦後復興が進む広島から物語が始まる。
当時の貧しい日本とその風俗が、実写映画ならではの「リアル」として、まず伝わる。古い白黒映像で見たことがあるような情景を再現できるのも、実写映画でのみ表現可能なリアルさだ。
私はテレビや映画をそれほど好んで観ないので、女優や俳優は良く知らない。それでも田中麗奈(石川七波)や堺正章(石川旭・老人時代)、田山涼成(打越豊・老人時代:原作には登場しない)ぐらいは知っているが、そういった有名女優・俳優以外の女優や俳優が、素晴らしく光る映画だと思った。アニメと違って、やはりリアリティがある。
DVDの特典映像で確認したが、平野皆美役の麻生久美子、利根東子役の中越典子は特に素晴らしいと思ったし、初めてこの女優を知った。特典映像のキャストに出て来ないが、太田京花役の女優(少女時代と大人時代の2人)も素敵だった。
概して広島弁を使う女性は(私の勝手な思い込みでしかないかも知れないが)、とてもチャーミングである。
映画でも原作のキャラクター同様に素敵な女性がチャーミングに広島弁を使うので、それだけでも本作を観る価値がある(ちょっと違うか?)。反対に、野郎が使う広島弁はちょっと怖い。
あまり書くとネタバレになるのでヤメておくが、映画のラスト、定年退職した石川旭(堺正章)が、娘の石川七波(田中麗奈)に「28にもなって、週末に予定もないとは情けない」と言いつつ、場面が平野皆美の最後に変わり、恋人の打越豊(青年時代)と弟の石川旭(少年時代)に「うち、幸せじゃったよ。二人とも長生きしいね。ほうして忘れんといてな、うちらのこと」と言い残すのが印象的だ。
場面が変わり、石川旭(堺正章)が最後に「七波は皆美姉ちゃんに、ちょっと似ているような気がする。だから、お前が、幸せにならないとな」と石川七波(田中麗奈)に言って映画が終わる。
(´;ω;`)ブワッ

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平野皆美の父(原爆で遺骨さえ不明)が大阪出張のお土産で髪留めを皆美とその妹の翠(被爆後ほどなくして死亡)に買い与えていた。
皆美の赤い髪留めの方が良い、と翠が主張したので翠の白い髪留めと交換するが、翠の赤い髪留めは原爆で焼けてしまったのだろうか。その白い髪留めは戦後13年を経て亡くなった皆美の手から母のフジミを経て、旭の妻で被爆者である京花が受け継ぐ。その京花も42歳で亡くなり、当時小学生だった娘の七波へと受け継がれていく。
それがあたかも世代を超えて苦しめられて行く、原爆による放射能のメタファーのように、私には思えた。これは原作にはない設定だが、映画では非常に効果的な役割を果たしているような気がしたのである。

おわりに

映画「夕凪の街 桜の国」がそうであるように、私も先の大戦や、広島・長崎に投下された原爆について、それが現在も続く「物語」として、私個人の政治的に偏狭な意見やスローガン的なことを、ここで述べるつもりは一切ない
ただ私としては、この記事を通して、まだ原作の『夕凪の街 桜の国』や、映画「夕凪の街 桜の国」を知らない方に全力でお知らせし、ぜひ原作や映画を視聴していただけるように訴えるだけだ。
私ごときがオススメしても余り意味はないかも知れないが、ぜひ原作を読むか映画を観るか、可能であればその両方をお願いし、この稀有な、そして「終わりのない」物語を知っていただき、考えて欲しいと願う。
最後に、あえてウイグルの話も書いておきたい。
ウイグルは支那の核実験場として使われ、40数回の核実験をやり、実際にウイグル人の頭上でも爆発させて、虐殺の実験も併せて行ったと言われている。
支那が秘匿している上に、外国人ジャーナリストがウイグルで十分に踏査が出来ないのが現状ではあるが、推定200万人以上が殺された、という報告もある。
こういった事実が、第二次世界大戦後の世界秩序の中に存在するということも、併せて知っていただきたいと思う。
原水爆の悲惨さと不幸は、実は日本と日本人だけのものではないのである。

 


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